咳
咳は最も一般的に見られる呼吸器症状であり、気道の内部に入った異物を排除しようとする体の防御反応です。このため本来の防御機能を止めてしまうのは良くないという意見もあります。ただ咳を100回すると200Kcalほどカロリーを消耗すると言われており、このレベルは30分のジョギングに匹敵するほどです。よって咳の治療は、まず咳の根本的な原因を治療することと、長引く症状を抑えて苦痛なく普段の生活が送れるようにすることが目的となります。
咳はその持続期間によって3週間未満の急性、4〜8週間未満の遷延性、8週間以上の慢性に分けられ、急性のものほど感染症の頻度が高くなり、慢性のものでは感染症は稀です。日本人で咳の原因として最も多いのは咳喘息/気管支喘息で、そのほか感染後の咳、アレルギーを基盤にした咳(アトピー咳嗽)や胃食道逆流症といった呼吸器以外の病気などでも咳が続くことがあります。また、ウイルス感染やマイコプラズマ、結核といった人にうつるもの、肺がんのような悪性疾患、気管支喘息といった成人では生涯続く疾患など、咳の原因はとても多様なため、しっかり鑑別をして治療に当たることが重要です。当院では痰の検査、血液検査、肺の機能の検査、画像検査など咳の原因を探る検査が充実しています。長引く辛い咳でお悩みの方は是非ご相談ください。
現在、新型コロナウイルス感染が広がるなか、喘息や花粉症などで咳き込むと居心地の悪い思いをすることもあります。当院では喘息バッジ、花粉症バッジをご用意しています。ご希望の患者様はお声掛けください。
気管支喘息
空気の通り道である気道(きどう)が慢性的なアレルギーによる炎症で狭くなり、発作的にヒューヒュー、ゼイゼイし、呼吸困難、咳、痰などが生じる疾患です。日本では喘息の患者様が増えており、1960年代では子どもも大人も1%前後でしたが、最近の調査では子どもで約6%と6倍、大人で約3%と3倍になっており、全体では400万人を超えています。その要因として、排気ガスなどによる大気汚染、食品や住宅建材などの化学物質、長時間勤務による過労やストレスが増えたこと、清潔すぎる環境などが考えられています。喘息はいくつか特徴的な出方をします。
- ①夜間~早朝にかけて
- ②季節の変わり目など
- ③気温差がはげしいとき
- ④天気がよくないとき、変わりやすいとき
- ⑤疲れているとき
- ⑥風邪をひいたとき
- ⑦発作を引き起こす刺激に触れたとき(タバコの煙、線香の煙、強い臭いなど)
これらの特徴を有する症状は喘息の可能性があります。
喘息の治療法としては、吸入のステロイド薬が中心になります。ステロイド、と聞くと飲み薬で見られる肥満や血糖値の上昇、胃潰瘍など副作用が強いイメージを持つ方もいるでしょう。しかし吸入のステロイド薬は軽微な声枯れや喉にカビが生えるような副作用はあるものの、これらも予防法があり、飲み薬のステロイドに見られるような強い副作用はほとんどありません。吸入ステロイド薬の登場により喘息患者様の重症度、死亡率は飛躍的に改善したといっても過言ではありません。これに加え抗アレルギー薬や気管支拡張剤を併用し治療をしていきます。難治性喘息の場合、近年では生物学的製剤といった新しいタイプの注射製剤の使用によりかなり喘息症状が改善してきています。症状を一時的に改善させる吸入薬(メプチンやサルタノール)のみを頻回に使用することはお勧めしません。お子さまから大人まで、喘息は長期に治療を要する病気です。主治医としっかり相談しながら治療方針を立てていきましょう。
COPD
COPDはChronic Obstructive Pulmonary Diseaseの略で、日本語では慢性閉塞性肺疾患と訳されます。以前、慢性気管支炎や肺気腫と言われていた病気で、主にタバコの煙を長期間吸うことにより気道が狭くなり、十分に息を吐けなくなった病態を指します。日本人のCOPD患者様の9割はタバコが原因です。
COPDでは咳や痰、動いたとき(労作時)の呼吸困難が主な症状ですが、症状がない人もいます。その中には症状を感じないように知らず知らずのうちに体の動き制限し、症状を感じていないと認識していることも多いようです。
COPDになると完治は困難で、失われた肺の機能が元に戻ることはありません。従って治療は、禁煙と、症状の進行を抑え、生活の質の維持・向上がメインになります。中心となるのは薬物治療で、吸入薬や内服薬になります。またマッサージやストレッチなどの呼吸器リハビリテーションが行われることもあります。進行してしまった場合には、在宅酸素療法という、鼻から常に酸素を吸う治療をすることもあります。
タバコが主な原因であるCOPDは、肺がんの合併も多い疾患です。また肺の機能が低下したことにより肺炎にもかかりやすくなり、これらがCODPの予後をさらに悪くしています。
肺炎
肺炎は呼吸器疾患の中で最もよく見られるもののひとつです。感染による肺炎は、細菌やウィルスなどが気道を通して肺の中に侵入し、増殖して炎症を起こします。このほか薬による薬剤性肺炎や、カビなどを吸入したことによる過敏性肺臓炎、関節リウマチなどの膠原病から来るものや、原因不明で肺が固くなる(線維化する)特発性肺線維症など、様々な種類があります。このうち最も一般的な感染による肺炎では、肺炎球菌の頻度が多く、続いてインフルエンザ菌、マイコプラズマ、クラミジアなどが原因菌となります。肺炎球菌性肺炎は重症化することも多い肺炎です。65歳以上で推奨されている肺炎球菌ワクチンは肺炎球菌のみにしか効きませんが、肺炎の原因として最も多く、重症化しやすい肺炎球菌性肺炎の発症頻度を下げることは非常に大きな意味があります。
肺炎の診断は、身体所見、白血球やCRP値を調べる血液検査、尿検査、胸部X線やCTなどにより行われます。
治療は、軽症であれば内服薬で対応できますが、重症化し、呼吸不全が強い時には、酸素投与や人工呼吸器を用いることもあります。高齢者では症状が出にくく気づいたときには重症化していることもよくあります。このため高齢者では普段から症状を注意深く観察し、少しでも変わった症状があれば早めに受診し早期に肺炎を発見することが重要です。
肺結核
肺結核は結核菌によって発症する呼吸器感染症のひとつです。結核菌はとても強い感染力を持ち、結核患者様がせきやくしゃみをすると結核菌が空気中に排出され、近くにいる人がその結核菌を吸い込むことで感染します。あまり知られていませんが、現在世界人口の1/3もの人が結核菌に感染していると言われています。ただ、結核菌を吸い込んで感染したとしても、すべての人が発症するわけではありません。約90%の人は抵抗力を持っており、白血球(マクロファージやリンパ球)によって結核菌を殺したり、結核菌を閉じ込めたりして発症を防いでいます。しかし発症を予防した後も、結核菌の一部は肺のどこかで眠ったまま生き続けています。ほとんどの人が菌が眠ったままの状態で亡くなるまで経過しますが、高齢になったり、他の病気で免疫力が低下したりすると、目を覚まして暴れ出し、結核を発症させることがあります。本邦では戦後、結核は国民病として成人の8割以上が体の中に結核菌を持っていました。現在、毎年およそ17,000人弱の日本人が結核を発症していますが、このうち71%を60歳以上が占め、特に3人に1人以上が80歳以上です。これはかつて結核が蔓延していた時代に結核に感染した方々が高齢となってから発病しているためです。
結核の検査は、まず痰の検査を一般的には3回以上行います。また最近では血液検査によっても結核感染の有無を調べることができます。肺結核についてはレントゲンやCT検査など画像検査で初めて発見されるケースもあります。
結核の治療は効き方の異なる抗結核薬を通常は3〜4種類、半年から9カ月ほど内服します。菌を空気中に排出(排菌)している状態では、結核専門病院への入院が必要になります。排菌がない場合は外来通院治療が可能です。定期的に受診し、きちんと内服が継続できているか保健所や医師と緊密に連携して確認していく必要があります。治療終了後も2年間は通院し、結核の再発がないか確認をしていきます。
肺腫瘍
肺腫瘍には、良性の肺腫瘍、悪性の肺腫瘍があります。悪性の肺腫瘍のうち肺から発生したものを原発性肺がん、他の臓器から転移をして肺にたどり着いたものを転移性肺腫瘍と言います。
日本の部位別がん死亡数では肺がんが1位となっており、国をあげて肺がんの研究や予防に取り組んでいます。肺がんの原因として最も重要なのが喫煙です。喫煙本数が多いほど、また喫煙年数が長いほど、肺がんになるリスクが高くなります。また、自分が喫煙していなくても受動喫煙により発がんのリスクは増します。日本では毎年約5,000人の人が自分がタバコを吸わないのにタバコにより肺がんなどで命を落としています。
肺がんは初期には発生部位にとどまっていることが多いですが、次第に周囲のリンパ節への転移や、肺内の別の場所、骨、肝臓、脳、副腎などに遠隔転移を起こすようになります。残念ながら肺がんのおよそ7割が、発見された時点でこのようにリンパ節や他の臓器に転移があり手術で切除できない進行肺がんで見つかります。このためいかに早く肺がんを見つけるかが重要になります。
肺がんは、一般的に細胞の種類により大きく2つに分類されます。肺がんの10~20%を占め、増殖が速くて転移を起こしやすい「小細胞肺がん」と、それ以外の80~90%を占める「非小細胞肺がん」で、それぞれに適した治療が行われます。
非小細胞肺がんの治療法
発生した部位付近にとどまっており、手術で完全に取りきれる可能性がある場合は、原則として手術が行われます。高齢者や重い合併症があるなど、手術が難しい患者様に早期非小細胞肺がんが見つかった場合は、がんを正確に狙って放射線をピンポイントで照射する、特殊な放射線治療(定位放射線治療)が行われることがあります。肺がんが少し進行して、周囲の臓器へ入ったり、付近のリンパ節へ転移したりして、手術で完全に取り除くことが難しい場合は、主に放射線治療を行います。比較的若くて体力がある患者様には、放射線治療と抗がん剤投与を併用した、強力な方法で治療を進めます。遠隔転移がある場合は、抗がん剤による治療が中心となります。骨に転移するなどして強い痛みがあるときは、痛みを緩和するために、痛みの原因となる部位に放射線治療が行われる場合があります。
小細胞肺がんの治療法
転移を起こしやすく、抗がん剤が比較的よく効く、という性質があるため、抗がん剤による治療が中心となります。放射線も比較的効きやすいため、胸部の比較的狭い範囲にとどまっている場合には、抗がん剤治療と放射線治療を併用する治療法も考えられます。遠隔転移がある場合は、抗がん剤治療を行います。小細胞肺がんは、脳に再発しやすいという性質があるため、目に見える脳への転移がない場合でも、予防的に脳に放射線照射を行うことがあります。
現在肺がんの抗がん剤治療は、呼吸器領域の中で最も目覚ましく発展をしている領域です。今後、肺がん患者様のさらなる予後の改善が期待されています。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が止まる無呼吸や、止まりかける低呼吸を繰り返すものです。これが1時間に5回以上認められると一般的には睡眠時無呼吸症候群と診断されます。睡眠中に呼吸が止まると、本人は寝ているため気付きませんが、脳は短時間ですが覚醒し結果として眠りは浅くなります。その影響で、寝覚めた時の頭痛、昼間の強い眠気、集中力低下や疲労感、といった日常生活上の不都合が多く発生します。更に、睡眠中の呼吸停止は、血液中の酸素濃度低下をもたらし、動脈硬化や不整脈を引き起こす可能性があります。血圧や血糖値の上昇にも繋がりますから、高血圧、糖尿病、脳卒中などのリスクも高まります。
原因としては、肥満に伴う首回りの脂肪の沈着、舌が気道へ落ち込むこと、扁桃腺の肥大、鼻の曲がりなどがあります。治療方法としては、まず肥満の解消になりますが、すぐに効果は得にくいため、就寝時のマウスピースの使用、鼻に空気を送り込む装置であるCPAPという機械の装着などを行います。
家族から指摘されるいびきや睡眠中の呼吸の停止、日中の眠気は過少評価せずに、ぜひ専門医の診察を受けてください。当院では自宅で簡単にできる簡易型の睡眠時無呼吸症候群の検査を行なっております。
禁煙外来
タバコがからだに有害であることは誰もが知っている事実です。具体的には日本人では喫煙により男性は8年、女性は10年寿命が短縮します。脳梗塞や心筋梗塞、上に書いた喘息、COPD、肺がんなどの悪性腫瘍は確実に増えます。それを十分知りながら喫煙を止められない人は大勢います。それは決して意志が弱いからではなく、タバコに含まれるニコチンに薬物依存性があるからです。最近流行のIQOS®︎、glo™、ploom
TECH™といった加熱式タバコもニコチン摂取量はほぼ同等かやや少ない程度で、加熱式タバコではニコチン依存症は変えられません。
ニコチン依存状態にあるタバコを止めたい人を対象に作られた専門外来が禁煙外来です。その背景にあるのは、「喫煙は個人の趣味・嗜好ではなく、ニコチン依存症という明確な病気である」という考え方です。
禁煙外来で最初に行われるのは、その人のニコチンへの依存度の強さを見極めることです。息の中にタバコの有害物質がどれくらい含まれているかを測定する呼気検査、すなわち一酸化炭素濃度測定を行います。更に問診票によって、ニコチン依存の実態が心理的なものか、薬物的なものかをチェックし、治療方法の選択に役立てます。
禁煙治療の期間は、どの医療機関においても概ね3カ月です。その間に禁煙補助薬を服用することとなります。禁煙補助薬は2種類あって、ニコチンを含むものと含まないものです。含む方は「ニコチン代替療法」といって、ニコチンを少しずつ補給しながら、禁断症状を緩和するという方式になります。一方の含まない方は、脳に対してニコチンと同様に作用するもので、タバコを断った時のニコチン切望感を緩和します。更に再喫煙してしまった時に、ニコチンをまずく感じさせる効果もあります。
禁煙をサポートする禁煙外来は、特別に知識や技術を習得したスタッフが指導を行うことでより禁煙の効率が上がります。当院では医師、看護師ともに専門のスタッフが治療にあたります。是非ご相談ください。